異文化の中で暮らしていると、「自分の普通」が分からなくなることがある

海外で暮らしていると、

「海外生活って楽しそう」
「いろいろな文化を知れていいね」

と言われることがあります。

もちろん、海外で暮らしたからこそ知ったことはたくさんあります。

日本にいた頃には当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかったと知ったり。

自分とはまったく違う考え方に出会ったり。

「そんな生き方もあるんだ」と思ったり。

自分の世界が広がったと感じることもあります。

でも、異文化の中で暮らすということは、いつも刺激的で楽しいことばかりではありません。

むしろ長く住めば住むほど、

「私は、どこまで合わせればいいんだろう」

と思うことがあります。

その国では普通のこと。

日本では普通だったこと。

家族の中で普通になっていること。

そして、自分自身が本当に心地いいと思うこと。

いろいろな「普通」の間で暮らしていると、ときどき自分の感覚が分からなくなることがあります。

私は海外で暮らして20年以上になりますが、今でもそんな瞬間があります。



「違う」ということに慣れるまで

海外に住み始めた頃は、違いがよく見えます。

言葉が違う。

食べるものが違う。

人との距離感が違う。

時間に対する感覚も違う。

学校も違う。

仕事の仕方も違う。

家族との付き合い方も違う。

最初のうちは、一つひとつが目につきます。

「日本だったらこうなのに」

と思うこともある。

逆に、

「日本もこうだったらいいのに」

と思うこともあります。

でも、そこで生活を続けていくと、少しずつ慣れていきます。

最初は驚いていたことにも驚かなくなる。

分からなかったことも、なんとなく分かるようになる。

言葉も少しずつ増えていく。

自分なりの生活の仕方も見つかってくる。

そうやって暮らせるようになっていくことは、海外生活では必要なことだったと思います。

私自身、環境が変わっても、その場所に合わせて暮らしていくことは比較的できる方だと思ってきました。

でも、長く海外で暮らす中で、別のことも考えるようになりました。

環境に合わせられることと、自分が心地よくいられることは、同じなのかな。

ということです。



合わせることが普通になりすぎると

異文化の中では、相手に合わせる場面がたくさんあります。

相手の言葉に合わせる。

その国の習慣に合わせる。

学校の仕組みに合わせる。

職場のやり方に合わせる。

国際結婚なら、家庭の中にも二つ以上の文化が入ってきます。

どちらかが正しいという話ではありません。

違う環境で一緒に暮らしていくなら、お互いに合わせることも必要です。

でも、それが長く続くと、

「合わせる」ということ自体を意識しなくなることがあります。

自分では普通に生活しているつもりでも、実は小さな調整を毎日たくさんしている。

言いたいことを、別の言葉に置き換える。

本当はもう少し説明したいけれど、うまく伝えられないから短くする。

相手には悪気がないと分かっているから、少し引っかかっても流す。

「文化が違うから仕方ない」と自分の中で終わらせる。

一つひとつは小さなことです。

だから、その場ではそれほど気にならない。

でも、ときどき、

「私は本当はどう感じていたんだろう」

と分からなくなることがあります。

相手に合わせた答えなのか。

自分が本当にそう思っているのか。

その境目が少し見えにくくなる。

私は、異文化の中で暮らす難しさの一つは、こういうところにもあるように感じています。



「日本人だから」で終わらせなくてもいい

海外にいると、自分の行動や考え方を、

「私は日本人だから」

と説明することがあります。

もちろん、育った文化から受けている影響はあります。

日本を離れたことで、初めて「これは日本独特だったんだ」と気づいたこともたくさんあります。

でも最近は、

「日本人だから私はこう思う」

だけでは説明できないことも増えてきました。

海外で暮らしてきた時間も、もう自分の一部だからです。

日本で育った自分。

海外で経験を重ねてきた自分。

家族を持ってからの自分。

仕事をしている自分。

年齢を重ねた今の自分。

いろいろなものが混ざっています。

だから、日本に帰ったときに、

「昔は何とも思わなかったのに、今は少し違和感がある」

と感じることもあります。

反対に、海外で暮らしていて、

「ここは長く住んでも、やっぱり私には少し違う」

と思うこともあります。

以前なら、

「どちらかに馴染めていないのかな」

と思っていたかもしれません。

でも今は、必ずしもそうではないと思っています。

二つ以上の文化を知ったからこそ、どちらも少し離れた場所から見えるようになった。

そんな見方もできるのかもしれません。



海外にいるから、海外を好きでいなくてもいい

海外生活については、少し言いにくい気持ちもあります。

自分で海外に来ることを選んだ。

夫の仕事で来た。

海外で暮らすことに憧れていた。

せっかくここまで来た。

理由は人それぞれだと思います。

だからこそ、

「ここがしんどい」
「日本に帰りたい」
「海外生活が自分には合わないかもしれない」

と思ったときに、

そんなことを思ってはいけないような気持ちになることがあります。

せっかく海外にいるのに。

恵まれているのに。

もっと楽しめばいいのに。

そんな言葉を、自分で自分に向けてしまう。

でも、海外で暮らしていることと、その生活をいつも好きでいられることは別だと思います。

好きなところもある。

嫌なところもある。

ここにいたい日もある。

日本に帰りたい日もある。

そのどちらが出てきても、それだけで何かに失敗しているわけではありません。

海外に残ることが正解でもない。

日本へ帰ることが正解でもない。

その答えは、その人の生活や家族、仕事、そしてその時の気持ちによって変わると思います。

私自身も、これから先ずっと同じ場所にいるのかは分かりません。

だからこそ、

「海外にいるべきか、日本に帰るべきか」

だけではなく、

「今の私は、どんな暮らしを心地いいと思っているんだろう」

という問いも持っていたいと思っています。



異文化の中にいたから、見えるようになったこと

海外で暮らしてよかったか。

日本にいた方がよかったか。

私は、この二つを比べても答えは出ないと思っています。

海外で暮らしたことで大変だったこともあります。

でも同時に、自分が当たり前だと思っていたものを、外側から見る機会も増えました。

日本では普通だと思っていたことが、世界の普通ではなかった。

逆に、海外では当たり前のことが、自分にはどうしても馴染まないこともある。

どちらかを正しいと決めなくても、

「こういう考え方もあるんだ」

と知る。

その経験を重ねるうちに、

「みんながそうしているから」

という理由だけで何かを選ばなくてもいいのかもしれないと思うようになりました。

異文化の中で暮らすことは、違う国の文化を知ることだけではなく、

自分が何を大切にしているのかを知る機会にもなる。

私は今、そんなふうに感じています。

だから、もし海外生活の中で、

「なかなか馴染めない」
「私はここに合っていないのかな」
「日本に帰った方がいいのかな」

と思う日があったとしても。

すぐに答えを出す前に、

自分が何に疲れているのか。

何に違和感を持っているのか。

逆に、今いる場所で好きなものは何なのか。

日本に帰りたいと思うとき、本当は何を求めているのか。

そんなことを一つずつ言葉にしていくと、自分の中にあるものが少し見えやすくなるかもしれません。

異文化の中で暮らしていると、

「私はどこに属しているんだろう」

と迷うことがあります。

でも最近は、

どこか一つに自分を合わせきることよりも、

いろいろな場所で見てきたものの中から、今の自分が大切にしたいものを選んでいく。

それでもいいのではないかと思っています。

海外にいる私も。

日本に帰ったときの私も。

その間で迷っている私も。

どれも、今まで生きてきた自分の一部です。

そして今日の私は、

どんなことを「心地いい」と感じているんだろう。

今は、その問いを大切にしています。

Kaori



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Kaori

海外で暮らして20年以上。

シドニー在住。

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